2013年8月分の記事です

古くて新しい漢方薬

漢方薬というと、中国発祥の古い薬だと思っている方はいませんか?それは半分正しく、半分間違っています。

漢方薬の起源は中国にあり、それが日本に伝わって独自の発展を遂げました。今でも中国に根付いている中医という学問、それと韓国の漢方である韓薬、それに日本の漢方は別のものであると考えても差し支えありません。漢方を構成する生薬の起源として挙げられる神農氏。その神農氏を奉っている大阪の少彦名神社の周りには、製薬会社がひしめき、塩野義・大日本住友・武田・田辺三菱といった大手も本社を置いております。

話が脱線しましたが、戻します。副作用という概念の無い特殊な薬剤である漢方薬ですが、日本に伝わってからは、独自の研究により、だいぶ様変わりしました。簡単に言いますと、漢方を構成する生薬が日本に無いものであったり、あえて違う生薬を使ったり、また分量を調整したりと様々な改良をしました。そのため、中国と呼び名が同じような漢方でも、日本人に合った薬へと改良されたものが、現在の漢方薬となっています。

中でも最も親しみ深い葛根湯などは、落語のネタにもされ、何にでも効くとしてテキトーに患者へ飲ませる医者が、病人の付添い人までにも葛根湯を飲ませるという藪医者の噺として有名になりました。

そんな漢方薬は、もちろん新しい薬も沢山開発されています。

例えば、世界初の麻酔手術を成功させた華岡青洲により十味敗毒湯は作られました。これでも古いと思う方へは、七物降下湯はどうでしょうか?こちらは昭和になってから大塚敬節により開発されました。

それでも古いと思う方へは現代漢方のゼナやルルなど色々なOTC薬はいかがでしょう?これらも立派な漢方薬であり、平成になってから開発され、中には西洋薬との配合により効果を出しているものもあります。

まだまだ古いと思う方は、昨年中国で開発された金花清感方はどうでしょう?こちらは麻杏甘石湯と銀翹散を基にインフルエンザ対策として開発されたそうです。

このようにひとくちに漢方薬といっても奥が深く、雑学を学ぶだけでも面白いものです。興味がある方は、真面目な漢方の勉強はもちろんのこと、構成する生薬や歴史など様々な側面にも目を向けてみてください。

藤波宏忠(イースト薬局)

片頭痛に悩んだ文豪

皆さんは片頭痛の症状というと何を思い浮かべますか?
頭の片方だけ痛むことから片頭痛と呼ばれていますが、実はこれは正確ではありません。

片頭痛は必ずしも頭の片方だけに起きるものでは無く、症状は多彩です。

その頭痛の発作は前兆を伴う場合と伴わない場合があります。
よく言われる前兆は閃輝暗点と言い、これを克明に記した作家がおります。

それは芥川龍之介で、遺稿である「歯車」です。
私は閃輝暗点の症状を詳しく知らなかったのですが、歯車が見える場合がある
ことをこのことから知りました。

患者さんとの対話の中で、不思議な歯車のようなものの話が出たら
幻覚などではなく、片頭痛を疑ってみてもよいかも知れませんね。

~以下「歯車」より引用~

僕の視野のうちに妙なものを見つけ出した。妙なものを?―と云ふのは絶えずまはつてゐる半透明の歯車だつた。僕はかう云ふ経験を前にも何度か持ち合せてゐた。歯車は次第に数を殖(ふ)やし、半ば僕の視野を塞(ふさ)いでしまふ、が、それも長いことではない、暫らくの後には消え失(う)せる代りに今度は頭痛を感じはじめる、―それはいつも同じことだつた

藤波宏忠(イースト薬局)

5 / 512345