2013年8月分の記事です

市販薬で薬害をおこさないために

政府は、2013年6月初め一般用医薬品のネット販売を99%解禁することを決めました。例外は、安全性情報が評価がすんでいない25品目程度。

処方せん無しで買える一般用医薬品の安全性を保つために、4年前からリスクに応じて販売規制をおこなってきました。リスクが高い第1類・第2類は店舗で対面販売とし、購入者への情報提供を義務付けていました。

2013年1月、最高裁判所は、厚労省令で一律にネット販売を禁じることは違法と判断しました。これを受けた厚労省は検討会を開催し、11回の会議の結果5月31日報告書を出しました。報告書は、ネット販売の全面解禁と部分解禁の両論併記でしたが、政府はすぐに全面解禁の方向を出しました。

市販薬の副作用報告は年間約250例あり、2007~11年度の5年間で計24人が死亡しています。死亡例の半数が、かぜ薬によるものです。

市販薬は多く飲み過ぎて中毒になることよりも、アレルギーによる「中毒性表皮壊死症」などが問題です。アレルギー性の副作用を防止するには、食物や他薬による過敏反応がなかったかを聞き取ることと、重いアレルギーの前駆症状を教え、症状が起きたらすぐに救急受診するよう指導することが大切です。

購入者から聞き取ったことが十分だったか、薬局の窓口でも悩むことです。対面販売であれば大丈夫というわけではありません。体調を崩した方が適切な治療を受けられる、地域医療の充実がなければ副作用被害は防げません。

薬の使い方で心配なことは、遠慮せず薬剤師にご相談ください。

【参考】
医療と福祉 協同組合ニュース 2013年6月号 P.8
http://www.yuiyuidori.net/iryou-fukusi/kumiaiho/2013/123/123_09_03.html
藤竿伊知郎(外苑企画商事)
薬の

竜と薬の関係

古来より日本や中国では、竜というと水神として崇められてきました。例えば寺社や神社にある竜の彫刻は、水を司る竜を火難防止の意味で取り入れています。

さて、数ある漢方薬の中でも有名な小青竜湯は、名前に『竜』が使われていますが、どのような意味があるのでしょうか。

まず小青竜湯の『小』は大小の小です。大柴胡湯・小柴胡湯、大建中湯・小建中湯と同じように、大青竜湯と使い分けて用いられています。

次に『青竜』ですが、これは陰陽五行思想と関連した四神相応から取られています。朱雀・白虎・青龍・玄武のことですが、ご存じでしょうか。

青春時代などと言いますが、これは四神相応の青春・赤夏・白秋・黒冬のうち青春だけ有名になっています。
(余談ですが、玄=黒です。玄人をくろうとと読みますよね。)

青龍は東の方位の守護神であり、青春の言葉通り春を司ります。そして水神として水を意味しています。

このことを総合すると、『青竜』の名が意味する薬は、春に効く水の病を治す薬と解るかと思います。

小青竜湯は花粉症・鼻水のような春特有の水の病によく使われますし、胃酸過多や腎臓病の浮腫の補助薬などとしても活躍します。その他、ひざに水が溜まっている時に用いられたりと、その名の意味する通りの活躍をしていますね。

漢方薬は番号で覚える方も多いかと思いますが、それぞれ名前に意味があることも多いので、調べてみると面白いですよ。

藤波宏忠(イースト薬局)

投薬は母の愛の証

患者さんへ薬を渡す際に、医師や薬剤師は投薬、看護師は与薬という語句を世間的には用いています。投薬というと投げて渡すような、説明抜きの乱暴な渡し方が想起されそうです。そのため、薬局では服薬指導ですとか、交付など様々な言い回しを用います。

さて、その投薬の語源はと言うと、実に二千年以上前に遡ります。世間的には仏教の開祖として、一部ファンからは聖☆おにいさんのイメージで有名な釈迦(仏陀)が語源となります。

仏教の涅槃図に描かれている場面で「投薬」が登場します。釈迦が死の淵に瀕し、沙羅双樹のもとで入滅しようとする際に、我が子を救おうと、天にいる母親の摩耶夫人が薬を与えようとします。

天から地上にいる子へ薬を与えようとするため、二階から目薬どころの話ではなく、投げて与えようとするのですが、沙羅双樹にひっかかってしまい、釈迦へは届かずに終わります。

投薬は決して乱暴な行為ではなく、子を思い遣る母親が、天から薬を渡そうとする慈しみあふれる行為が語源なのです。

藤波宏忠(イースト薬局)

薬と毒は表裏一体

秋には綺麗な花が沢山咲きますね。ついこの間、今年は猛暑の影響により彼岸花の開花が遅れているとニュースで報じられていました。

真っ赤に咲き誇る彼岸花は美しいですが、その美しさと同時に、不吉なイメージも強い花では無いかと思います。その理由として、彼岸の頃に咲き、墓地などで集団群生している様や、花の名前の不吉さが挙げられます。

なぜ彼岸花は墓地に多く咲いているか、これには昔からの知恵が生かされていることをご存知でしょうか?

古来より彼岸花には毒が含まれていることは知られており、それを利用した虫除け&モグラ除けとして、あぜ道や墓地に人為的に植えられました。(ちなみに主成分のアルカロイドはイネ科の植物への毒性が弱いそうで、
田んぼに植えるのにはもってこいだったようですね。)

強い毒を有している彼岸花ですが、逆に薬として活用している例もあります。石蒜(セキサン)と言う生薬として利尿・去痰作用を期待し、風邪薬などに配合しているのです。(2010年9月現在、10種のOTC薬で利用)

彼岸花と同様に秋の季語として知られているトリカブトも根を生薬として利用し、附子(ブシ)という名で有名になっていますね。こちらもアルカロイドが主成分で、弱毒処理して用いています。

さて、アルカロイドは塩基性の成分です。塩基性の薬は酸性の条件下では吸収がゆっくりとなります。すなわち、食前に飲むほうが吸収がゆっくりとなり、その副作用が出にくくなります。漢方を食前に服用する主な理由のひとつですね。

今回挙げたのは一例ですが、どんな薬も使い方を誤れば毒となり、適量を適切な症例に適切に用いれば薬となります。

毒と薬は表裏一体であることを肝に銘じ、医療に携わるものとしてこれからも日々適切な医療を提供できるよう精進したいものです。

藤波宏忠(イースト薬局)

古くて新しい漢方薬

漢方薬というと、中国発祥の古い薬だと思っている方はいませんか?それは半分正しく、半分間違っています。

漢方薬の起源は中国にあり、それが日本に伝わって独自の発展を遂げました。今でも中国に根付いている中医という学問、それと韓国の漢方である韓薬、それに日本の漢方は別のものであると考えても差し支えありません。漢方を構成する生薬の起源として挙げられる神農氏。その神農氏を奉っている大阪の少彦名神社の周りには、製薬会社がひしめき、塩野義・大日本住友・武田・田辺三菱といった大手も本社を置いております。

話が脱線しましたが、戻します。副作用という概念の無い特殊な薬剤である漢方薬ですが、日本に伝わってからは、独自の研究により、だいぶ様変わりしました。簡単に言いますと、漢方を構成する生薬が日本に無いものであったり、あえて違う生薬を使ったり、また分量を調整したりと様々な改良をしました。そのため、中国と呼び名が同じような漢方でも、日本人に合った薬へと改良されたものが、現在の漢方薬となっています。

中でも最も親しみ深い葛根湯などは、落語のネタにもされ、何にでも効くとしてテキトーに患者へ飲ませる医者が、病人の付添い人までにも葛根湯を飲ませるという藪医者の噺として有名になりました。

そんな漢方薬は、もちろん新しい薬も沢山開発されています。

例えば、世界初の麻酔手術を成功させた華岡青洲により十味敗毒湯は作られました。これでも古いと思う方へは、七物降下湯はどうでしょうか?こちらは昭和になってから大塚敬節により開発されました。

それでも古いと思う方へは現代漢方のゼナやルルなど色々なOTC薬はいかがでしょう?これらも立派な漢方薬であり、平成になってから開発され、中には西洋薬との配合により効果を出しているものもあります。

まだまだ古いと思う方は、昨年中国で開発された金花清感方はどうでしょう?こちらは麻杏甘石湯と銀翹散を基にインフルエンザ対策として開発されたそうです。

このようにひとくちに漢方薬といっても奥が深く、雑学を学ぶだけでも面白いものです。興味がある方は、真面目な漢方の勉強はもちろんのこと、構成する生薬や歴史など様々な側面にも目を向けてみてください。

藤波宏忠(イースト薬局)

1 / 212